世界大学ランキング(THE)指標、決め方や方法論について
Times Higher Educationが毎年出している世界大学ランキングですが、東大が何位になって下がった上がったというニュースをよく耳にすると思います。ちょうど9月頃に毎年発表されるのですが、このランキングがどういった指標で構成されランキングが決められているのか、その方法論についてまでは細かく知られていないかもしれません。
このランキングを決める要素はどういった指標が使われているのか、その指標の占める割合などここでご紹介してみたいと思います。
なお、ここでご紹介している指標やその算出される割合は2020年に発表されているものでご紹介しています。年が変われば変わる可能性も出てきますので、事細かに知りたい方はTimes Higher Educationのホームページより詳細はご確認ください。
THE世界大学ランキングとは
THEとは、Times Higher Educationの略で、元々はイギリスの新聞The Timesの付録冊子となっていましたが、その後、別会社から雑誌として発行されるようになり、買収されたりをして今に至ります。
日本でも、文部科学省のスーパーグローバル大学創成支援でこのTHEの世界大学ランキングを目標にしていたりもするので、世界的にも非常に注目度の高いランキングと言えます。
世界の大学ランキングを出しているのは他にもQSなどありますが、恐らく世界的な認知度や注目度においてはこのTHEの右に出るものは無いのではないでしょうか。
THE世界大学ランキングの成り立ちなど詳しい説明はWikiペディアに譲りますので、そちらをチェックしてみて下さい。
ランキング掲載のための前提条件
ランキングは全ての学問領域を対象としているわけではありません。多くの学問領域をカバーしてはいますが、このランキングが対象としている学問領域は以下の11領域です。
- Clinical, Pre-Clinical, Health(医療保健)
- Life Sciences(生命科学)
- Physical Sciences(自然科学)
- Psychology(心理学)
- Business and Economics(ビジネス・経済学)
- Education(教育)
- Law(法律)
- Social Sciences(社会科学)
- Engineering and Technology(工学・テクノロジー)
- Computer Science(コンピューター科学)
- Arts and Humanities(芸術人文学)
またどんな大学でもこの世界大学ランキングの対象になるという訳ではありません。THEでは以下のようなランキング対象の前提基準を設けています。全ての基準を満たす必要があります。
- 過去5年間に1000以上の出版物を出版かつ1年間で150以上の出版物を出版
- 学士課程の教育を行っている
- 一つの狭い学問領域に特化していない
- ランキング対象年の調査対象の全数値を提供していたこと
- 指標を構成する項目の数字を2つ以上ゼロとして出していない
- 上記領域のうち最低一つの学問領域の数値を提供する
THE世界大学ランキングの5つ指標
THE世界大学ランキングは主に5つの指標から構成されています。「教育」「研究」「引用」「国際性」「産業貢献度」の5つです。これらそれぞれの指標を細かくご紹介してきます。
これらの指標の数値を出す場合に、総合大学や単科大学などの違いや、文系分野や理系分野による違いなども出てきますので、そういった点は加重して計算しているとしています。
※それぞれの英語の日本語はできるだけTHEの意図に沿うように訳したつもりではありますが、訳が不適合な場合もあります。予めご了承ください。
教育 (Teaching)
英語では「Teaching」とされています。教える事なので教育と訳させてもらっています。
この教育の指標の中では更に5つの小指標に分かれています。それは「名声調査」「研究スタッフと学生の割合」「学士修了者の博士課程修了割合」「研究スタッフの博士課程修了割合」「研究スタッフあたりの教育機関収入」。この5つから教育という指標が構成されています。
この教育指標全体で、ランキング決定要素の30%を占めます。
名声調査
Reputation Surveyと英語で呼ばれていますが、直訳すれば名声調査(またはブランド調査?)と言え、毎年11月~2月の4ヶ月間で行われる個別調査です(年によって実施時期がずれる可能性もあり)。全体のランキング決定要素の15%(教育指標として)と、後程ご紹介する研究領域の18%の合計33%を占めています。
このTHE世界大学ランキングの2大重要決定要素の一つです。ランキングで上位に食い込もうと思えばこの名声調査で良い結果を出さないといけません。
Reputation Surveyとは
では、名声調査(Reputation Survey)とはどういったものなのでしょうか。
この調査は、研究者対象に行う調査で、大学の名声や評判などを調べる内容になっているようです。毎年10,000件以上の回答を集めているようです。
質問項目など公表されていませんので、どういった質問がこの調査内で行われているかは具体的にはわかりません。ただ、簡単に公表されていることは、教育や研究においてこの大学がすごいと思える大学を一般的な見地からと自身の経験から15大学ほど挙げていく調査とは謳っています。
簡単にイメージするとするなら、プロ野球のオールスター投票で選手間投票というのがあると思いますが、感覚としてはそれに近いのかなと思います。
そしてこの調査は招待制です。研究者であればだれでも回答できるというものではありません。最新の国連のデータを基に国々で特定分野の代表的な研究者を中心に配布されているようです。
教育分野と研究分野でのこの調査の結果が鍵を握る一つと言っても過言ではないでしょう。
学生と研究スタッフの割合
Academic Staff-to-Student Ratio:ランキング決定要素の4.5%です。
文字通り、学生数に対して研究スタッフの数がどのくらいかという割合です。通常は研究者スタッフ1人に対して学生数が少ないと良いはずですが、実際のその割合の高い低いでどう判断されているのかはわかりません。
学士号取得者における博士号取得者の割合
Doctorates-awarded-to-bachelor-degrees-awarded ratio:ランキング決定要素の2.25%です。
研究スタッフにおける博士号取得者の割合
Doctorates-awarded-to-academic-staff ratio:ランキング決定要素の6%です。研究スタッフのなかでどのくらいの割合で博士号取得することができているか。
スタッフあたりの教育機関収入
Institutional income per staff:ランキング決定要素の2.25%です。
その教育機関の一般的なステータスを示し、大まかに学生やスタッフに対する設備状況などを表すとしています。
以上が、「教育」指標を構成している小指標5項目です。
研究 (Research)
英語では「Research」とされています。
この研究の指標の中では更に3つの小指標に分かれています。それは「名声調査-研究」「研究スタッフあたりの研究費」「研究成果」。この3項目から研究という指標が構成されています。
この研究指標全体で、ランキング決定要素の30%を占めます。
名声調査(研究領域)
Reputation Survey - Research:ランキング決定要素の18%と大きな割合を占めます。
名声調査の内容については前の項目でご紹介した通りで、研究者同士で行う調査です。教育領域の方は、その大学の評判や名声などブランド意識のようなものの調査でしたが、研究領域では優れた研究に関する調査を行っています。
こちらも研究領域の細かな質問項目などは公表されていないためわかりません。教育領域と研究領域で合わせて33%のランキング決定要素となっているため、名声調査での評価が非常に重要な項目であることは間違いありません。
スタッフあたりの研究費
Research income per staff:ランキング決定要素の6%です。
Research incomeなので直訳すれば研究収入となりますので、研究費と捉えても良いかと思います。この研究費を研究スタッフの数で割った割合です。
研究費なので各国政府の政策やその時の経済状況などで変動が出るため議論の余地が出てくる指標とされていますが、研究費を巡る競争といった側面もあるため重要な指標と位置付けています。
研究成果
Research Productivity:ランキング決定要素の6%です。
THEが共同で調査を行っているElsevierのデータベースにあるアカデミックジャーナルで掲載された論文等発行物の数をスタッフ(アカデミックと研究スタッフ)の数で割った割合です。
この指標によりその教育機関の論文などを著名なジャーナルで掲載できる能力を表すとしています。
以上が、「研究」指標を構成している小指標3項目です。
引用 (Citations)
英語では「Citations (Research Influence)」とされています。ランキング決定要素の30%を占め、名声調査と同等に非常に重要な指標になります。
Research Influenceなので、「研究の影響度」ということになります。論文で引用される度合いが高ければ、その研究の影響度も高いということになります。
THEは、学者によって世界的に引用されている大学の論文や論説(article)などの引用回数を調べています。Elsevierのデータベースにある24,000以上もの過去5年間のジャーナルや発行物を対象とし、ランキング発表年も含めて約6年間の引用を収集しています。
論文に限らず、THEでは対象をjournal article, article review, conference proceedings, booksとしています。
世界的に引用されるようなクオリティの高い論文や論説を世に出して行くことが重要となるため、やはりいかにクオリティ高くかつ英語による論文や論説を出して行けるかが最低条件になってくると思われます。
国際性 (International Outlook)
International Outlookは、「スタッフ」「学生」「研究」という3つの視点でそれぞれの国際性に関する調査が行われます。
この国際性指標全体で、ランキング決定要素の7.5%を占めます。
留学生割合
Proportion of International Students:ランキング決定要素の2.5%です。
日本の大学のランキングが低いのは留学生が少ないからという理由が挙げられたりもしますが、ランキング要素の2.5%に過ぎません。もちろん留学生が多く国際性に富んでいるのが理想ではありますが、留学生の多い少ないはそこまでランキングに影響しないと見ても良いのではないでしょうか。
海外研究スタッフ割合
Proportion of International Academic Staff:ランキング決定要素の2.5%です。
学びに来ている留学生ではなく、研究スタッフとしてその大学にどれだけの外国籍のスタッフがいるかという指標です。
研究の国際協業
International collaboration:ランキング決定要素の2.5%です。
少なくとも1名の海外共著者がいる論文などの研究発表物がどの程度あるかという指標となります。
産業貢献度 (Industry Income)
Industry IncomeまたはKnowledge Transferと英語では呼ばれています。ランキング決定要素の2.5%を占めます。
研究に関連する産業に、イノベーション・発明・コンサルティングなどでどの程度貢献しているかを示すものです。その対価として関連産業界からどれだけ研究費や支援を受けているか、その程度を表しています。その関連産業の活性化につながる大学の研究や能力の度合いもわかります。
この指標から見えてくるもの
それぞれの各指標のランキング決定要素の割合をまとめると以下の通りです。
- Reputation Survey - Teaching: 15%
- Academic Staff-to-Student Ratio: 4.5%
- Doctorates awarded/bachelor awarded ratio: 2.25%
- Doctorates awarded/academic staff ratio: 6%
- Institutional income per staff: 2.25%
- Reputation Survey - Research: 18%
- Research income per staff: 6%
- Research Productivity: 6%
- Citations (Research Influence): 30%
- International Students: 2.5%
- International Academic Staff: 2.5%
- International collaboration: 2.5%
- Industry Income/Knowledge Transfer: 2.5%
これらの各指標がランキング決定要素に占める割合を俯瞰してみるとどうでしょうか。一番重要なのは、名声調査(Reputation Survey)で他の大学からも教育機関としても研究機関としても世界的に認められるようになること、そして研究のクオリティを高めて引用回数が増えていくことが恐らく大切になってくるのではと推察されます。
その結果、研究費も増え研究の成果もどんどん世に出せるようになり、そうなることで他大学からの評価も更に高くなるという好循環が生まれ、必然的に世界大学ランキングの順位も上がっていくと思われます。